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交流会

「日本ケミファ株式会社 今井 利安さん(研究職)」

司会:日本ケミファ株式会社 富沢 克正さん

研究に対するモチベーションは大きいが
データ不正の誘惑を断ち切る倫理観も必要

司会それでは交流会を始めたいと思います。
これはブレイクルームということですので、何でも遠慮なく講師の方に質問してほしいと思います。初めの方、お願いします。

学生講演の内容とは少しずれてしまいますが、最近ある製薬企業の不祥事と言いますか、医薬品の不正製造事件がありました。研究職に携わっているお立場として、そういった事件をどうお思いになったのか、お聞きかせいただけますか。

司会ブレイクルームらしい質問ですね。今井さん、いかがでしょうか。

今井本日の講演でも、私自身の価値観を少し加えながらお話ししましたが、そもそも不祥事を起こす理由は「(動機善なりや)私心なかりしか」ということだと思っています。
研究に携わればだれでも新しいデータを示したいと思います。
ただ、自分が担当研究をより進めて、それを創薬につなげたいという思いが強すぎるために、データの捏造や改ざんを行ってしまう研究者はたしかにいます。
弊社もかつて、臨床試験をやっていないのにやったことにして、データを捏造して製品化するという事件を起こしたことがあります。
研究者にはそういう誘惑がままあると思います。
重要なことは、それをどのように制御するかですが、やはり自分自身が強い倫理観を持つこととしか言いようがないと思います。
会社から成果を求められることはプレッシャーにもなりますが、もし問題を起こせば最終的には自分に返ってきます。
特に製薬企業の研究は厳格に管理されているので、うそがあれば絶対にどこかで露見してしまいます。
ですから、自分が強くなるしかないといつも思っています。

学生ありがとうございます。もう一つ質問させてください。
本日のご講演で、「研究が楽しいことがとても大きなモチベーションになっている」とおっしゃっていました。
開発した薬が実際に役に立つというか、患者さんを治すかどうかということ以上に、研究そのものに対するモチベーションが大きいとのことでした。
実際に、病気が治るかどうかはどうでもいいと思っていらっしゃるのか、それは自分のモチベーションの源としてのランクの中であまり上位にないのでしょうか。そこが気になりました。

今井正直に言えば、患者さんの役に立つのか立たないのかということは、個人的な、科学的な興味としては大きくありません。
製薬会社にいる以上、それは許されないのかもしれませんが、個人的には別にそこまでそこにこだわる必要はないと思っています。
ただ、患者さんの役に立つものでなければ薬になりません。
製薬会社は薬をつくって利益を出す会社ですから、自分の興味だけで研究を進めることは当然許されませんし、私個人としては、そこは自分の中で折り合いをつけてやっているという感じかもしれません。
製薬会社には、たとえばがんの治療薬を開発して患者さんを救いたいという高い志を持っている研究者もたくさんいますので、あくまでも「私の場合は」という特殊なケースだと思っていただいたほうがよいかと思います。

司会今のお話はけっこう特殊かもしれません。
  今井さん、研究職はプレッシャーがすごく強いので、そういう考え方を持たないと押しつぶされそうになることもあるかもしれませんね。

今井状況によってはそういうこともあるかもしれません。

疾患がより複雑化しているにもかかわらず
医薬品の開発スピードは遅くなっていない

司会医薬品の研究開発そのものについて質問はありませんか。

学生少し不躾な質問になりますが、お許しください。
医薬品は開発されてから治験を経て、承認されるまでにとても年数がかかるということをファーストステージの講演で伺いました。
個人的な印象ですが、日本を含めた世界における医薬品開発のスピード感は、現状では少し遅いのではないかとときどき思ってしまいます。
 研究職、つまり薬の開発の最初の段階から研究に関わっておられる方たちは、そのスピード感をどのようにお考えでしょうか。

今井薬のシーズや候補物質が発見されてから医薬品として承認されるまでの時間ということだと思いますが、印象としては、現在はかなり速くなってきているように思います。

司会私もそう思います。

今井昔は、いわゆるターゲットがわりと単純な薬が多かったように思います。
つまり、薬のターゲットが比較的末梢側で、中枢神経系ではなくて、越えなければならないハードルが非常に高いというわけではありませんでした。ただそれでも、その開発には10年ぐらいかかっていました。
一方、病気の研究が進んできた最近は、治療のターゲットがかなり複雑化してきて、開発自体のハードルがとても高くなってきています。
ただそれでも、開発期間は10~15年程度で、大幅に長くはなってはいません。
越えていかなければならないハードルが昔よりも、少なくとも10年ぐらい前よりも格段に高くなっていることを考慮すれば、開発スピード、さらには上市(発売)までの期間はそれほど延長していません。ですから、全体的にはかなり効率化されて速まっていると言ってよいのではないかと思います。

学生流れとしては、病気がどんどん複雑になってきていても、早く患者さんのもとに薬を届けたいという思いが製薬業界全体にあるということでしょうか。

今井そうですね。期間が延びると開発費もさらに増大するので、利益を考えても短期間で開発したいとみんな考えていると思います。

学生ありがとうございます。個人的には遅いように思っていたのですが、むしろ迅速化されているということで、少しうれしく思いました。

司会製薬協でも常々言っていることですが、日本の製薬産業は世界に引けを取らないレベルにあるので、他国に比べて開発期間が長いということはないと思います。

優れた研究を意識するとつらくなるので
大きな業績を挙げることを目標にしない

司会参加者の皆さんは、これから社会に出て研究に携わられると思いますが、何か今知っておきたいことはありますか。

学生同期に知識量が驚くほど豊富な人や、研究室にすでに入って研究を始めている人がけっこういます。
そういう人を見るとあせりみたいなものがあります。
研究を行う人は業績や論文を重視されるので、ほかの人がより優れた研究をしていると感じたときに病んでしまったり、メンタル面に不調をきたしたりすることもあるのではないでしょうか。
そうした心の状態との付き合い方、コントロールはどうされていますか。

今井少なくとも、私自身は自分が研究者として大したことがないと思っているので、あまりそういうところで悩むことはありません。
ただ、大学院まで行って、大きな希望を持ってアカデミアで生きていくことを志していた時期はあります。
そのときに最先端の研究者の方と会って、このレベルに達していないとアカデミアでは生きていけないのだと思い、打ちのめされたことはあります。
その研究者と同じような結果を出すことは無理ですし、自分として真に優れたというか、イノベーションを自ら生み出すような研究者になることはできないなと、そのときから自分の中で折り合いをつけています。
ですから、あまりそこで苦しむことは今のところありません。
最先端のレベルで業績を出すことだけを考えるとつらくなって、その時点で研究が楽しくなくなってしまい、もう日々が苦行になるんじゃないかと思います。

学生先ほどもおっしゃっていましたが、どちらかというと業績というよりは、研究が面白いというところをモチベーションにされているわけですね。

今井そうでないと、つらくて研究を続けられません。

司会人と比べるのも善し悪しということでしょうか。

今井あの人のほうが業績を積み上げている、論文を多く発表していると思うことはありますが、それを意識するとつらくなります。

司会確かに、そこにフォーカスしてしまうとつらそうですね。

今井途端に研究活動がつまらなくなりますから、自分の中で、自分との折り合いのつけ方を探すしかないのではないかという気がします。
私は壁打ちと呼んでいますが、社外で仲のよい人をつくって、その人に今こうなんだよねといった話をして、その人からアドバイスをもらうことをよくします。
飲みながらでもいいですが、そういった壁打ちをするのも手段の一つかと思います。

興味を深堀りして自分のフィールドを確立し
失敗してもまた戻れる場所を確保しておく

司会先ほど、研究者には倫理観が必要とのお話がありましたが、何か研究者の心構えなどについて質問はありませんか。

学生inochi WAKAZO Projectという団体に所属しています。
お聞きしたいことは先ほどの学生さんの質問内容に近いのですが、研究のどういうところに興味を感じて研究を続けられているのか気になっています。
一つの瞬間にやりたいこととか興味のあることが複数あってしかるべきだと思っていますが、自分が今興味を持っていることがはたして将来的にずっと続くような興味なのか、もし一生続くと考えたときに、ある種の覚悟を決めて仕事にしようと決意できるものなのか、その見分け方があまり自分の中でわかっていません。
今井さん自身は薬剤の研究のどういうところに、仕事としてずっと続けるための興味を持たれているのかを伺いたいと思います。

今井なかなか難しいところですが、一つのことが永遠に続くことは基本的にはないので、やはり状況は動いていくというのが大前提です。
講演でも少し触れましたが、最初は自分の強みがどこにあるのかを考えます。
そこに軸足を置けないとつらいというか、何もできなくなってしまいます。
それは、自分の興味がどこにあるのかを明確化することでもよいと思います。
そこに軸足を置いて、自分の立ち位置をしっかり持てたときに、次の興味に足を伸ばせる、幅が広がるはずです。
私はそれをピボットと呼んでいます。
自分のフィールドを明確に持っておいて、そのフィールドがしっかりしてくると、自分をけっこう遠くまで飛ばせると思います。
遠くまで飛んでそこがだめであれば、また自分のフィールドに戻ってくればよいという考え方を持っていれば、興味をより遠くに飛ばせるようになるのではないかと思っています。
ですから会社でも、最初は自分の興味のあるところをしっかり深掘りして、ここは自分のフィールドだ、少なくとも会社の中でこのフィールドを熟知しているのは自分だけだという思いを持てれば、そこからいろいろなところに飛ぶことができます。
AIは特にそうだったのですが、生物学的な研究とはそれなりに離れたところの興味も発生するので、そういうふうに自分の興味を少しずつ外にずらしていくというかたちで、モチベーションを保ち続けるというやり方は一つあってよいのではないかと思います。
 もちろんそれは人それぞれだとは思いますが、少なくとも、自分は何が面白いのかをきちんと言語化できるようにしておくことは重要だと思います。

司会それは研究職に限った話ではないですね。

今井はい、どのような領域でも同じだと思います。

司会自分の強い分野、強固なところ、元に戻れるところをしっかり持っておく必要があるということですね。
示唆に富んだお話だと思います。

大学の魅力は時間を気にせず研究できること
製薬会社の妙味は研究が製品に結びつくこと

司会ただ今、研究に対する姿勢について今井さんがお話しされましたが、何かそれに関連する質問はありますか。

学生今井さんはお話の中で「途中でアカデミアのほうの研究にもかかわった」とおっしゃっていたましたが、企業の研究者として働いたあとでアカデミアで活動されて、どのような違いを感じられましたか。
 ここは企業のほうがいいとか、こういうところはアカデミアのほうが自由だとか、いかがでしょうか。

今井会社に入って3年目ぐらいのときに出向で大学に行ったのですが、アカデミアに戻ったときに何が楽しかったかと言えば、ひたすら実験していていい、残業時間も気にしなくていいというところでしょうか。
会社に入ったときは、残業時間をいつも気にしながら仕事をしていたのですが、大学出向中はおそらく月120時間ぐらい残業時間がついていたのではないかと思います。
そういうところと、あとは興味があるところに実験を向けられることも大きな魅力です。
大学でも手続きを踏まなくていいわけではありませんが、格段に手続きの量が少ないので単純に楽しいです。
一方、大学の研究では薬に到達することはほぼありません。
本当にコアな薬のシーズ、候補物質を特定することは大学のほうが得意だと思いますが、そこから製品に持っていけるのは製薬企業だけだと思っています。
最終的に成果物として薬が生まれ、皆さんがよく言われるようにそれが患者さんを救う。
 そうした成果に結びつけられるところは、やはり製薬会社で研究することの妙味の一つだろうと思っています。

研究を創薬に結びつけることは企業に任せ
大学では知的労働に時間を当ててほしい

司会先ほど、大学生でもすでに研究室で研究に携われている人がおられるとのお話がありましたが、そういう方で何か質問はありませんか。

学生具体的な質問になりますが、今自分が取り組ませていただいているプロジェクトでは、薬とその容器を同時に検討しています。
アイデア自体はとてもよいと評価していただき、すでに容器はプロトタイプができるかできないかのところまできています。
ただ、薬のほうはまだ進んでいません。
実際に薬をつくるとなれば、先ほど来説明があったように長ければ9年ぐらいかかるとのことです。
もし本気で創薬に取り組むとしたら、まずどういうところにつながりを持って進めていくのがよいのでしょうか。

今井つながりというのは、他の組織や機関などということですか。

学生そうです。

今井結局のところ、薬をつくるのは一人では全部できないので、それこそさまざまな領域の人でチームをつくって取り組まないと進められません。
ですから、まずはそのチームをつくることが第1段階だと思います。
それで、薬のシーズのようなものがすでにあれば、早めに特許を取得して、オープンイノベーションを行っている企業がたくさんあるので、そういうところに自分のアイデアを買ってもらうように働きかけることです。
興味を持った製薬会社がうちでやりましょうとお金を出してくれて、創薬につなげてくれる可能性はないわけではありません。
上市と言いますが、薬として世の中に出すことは、大学単独ではおそらく無理だと思います。
たとえば、データの収集もとてつもなく面倒なステップを踏んで行うことになるので、それは大学でやることではないし、大学でやってほしくないことです。
大学でやってほしくないという意味は、そんな無駄なことを大学でしなくてよいということで、もっと知的労働に時間を当ててほしいと思います。
 自分が大学の中で、創薬の最終的な段階まで持っていこうと思わないほうがよいと思います。

学生どうしようかと悩んでいたのですが、今のお話で方向性がすごく明確になりました。ありがとうございました。

司会会場からの質問もだいたい尽きたようですので、私から1つ伺います。
 今井さんは今、AIに取り組まれているとのことですが、AI創薬のバックグラウンドがない中でどのようにしてそこに行き着いたのでしょうか。

今井とにかくAIが何なのかというところから始まり、歴史とか、あとは数学なので行列方程式やフーリエ変換など、一から勉強し直しました。
 そうした基礎知識をまず身につけ、それからAIの研究者のいろいろな論文を読みました。

司会その研究を始めて数年経たれているようですが、創薬の可能性はいかがでしょうか。

今井AIはまだ創薬の補助的な位置づけになっていますが、すでに外資系の企業を中心に巨額な投資が行われていますし、そこに関わるデータサイエンティストの年収も4,000万円とか5,000万円という人がざらにいます。
非常に需要もあり、今後はさらに重要視されていくと思います。
そういう意味でも魅力的な領域だと思っています。

司会もう少しいろいろな話を伺いたいのですが、予定時間になりました。本日お集まりいただいた皆さん、ありがとうございました。

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